第10回 地域に根差した
よりよいケアを目指す
労働者協同組合(江戸川区)
(2024年5月掲載)

労働者協同組合の皆さま>
ワーカーズいきいきサポート労働者協同組合は、平成14年3月に江戸川区で設立された特定非営利活動法人(以下NPO法人)ワーカーズいきいきサポート(訪問介護・通所介護・放課後等デイサービスなどを運営)を母体組織とする法人で、令和6年1月に労働者協同組合に組織変更をしました。
団体設立のきっかけや組合員の働き方で大切にしていることを中心に、代表理事のSさんにお話を伺いました。
団体設立のきっかけや組合員の働き方で大切にしていることを中心に、代表理事のSさんにお話を伺いました。
1.海外の協同組合

Sさんは住宅生活協同組合に勤務していた平成2年に、スペインのモンドラゴン協同組合(※第11回活動紹介記事「世界の協同労働について」参照)を視察に行く機会がありました。競争ではなく共に創り上げていく「共創」というコンセプトを掲げ、従業員が出資を行い、運営主体である総会での投票権を持つなど、経営にも関与している様子を目の当たりにし、協同労働に強い魅力を感じました。
日本でも協同労働の仕組みを導入し運営している団体があることを知り、そこでの建物管理や高齢者施設の配食の仕事に従事しながら、協同労働の実践を経験しました。一人ひとりが意見を出し、自ら考え、行動することが社会全体を良くすることにつながるという運営の基本とする考えに共感しました。
2.地域とつながる協同労働という働き方について

NPO法人立ち上げのきっかけの一つは、Sさんの母親の介護でした。自身の生活圏で設立した方が生活との両立に近づけるとともに、介護・福祉の分野で地域のニーズに合ったケアを提供することで、地元に貢献できるとの考えからです。当時、子どもが小さかったことから、交流のあった父母の会活動や婦人会に事業立ち上げについて声を掛けましたが、なかなか人手や資金が集まりませんでした。しかし、発起人会を地道に開催し、事業の意義や働き方について丁寧に説明を続けることで、仲間を集めることができました。またヘルパー三級講座を開催することで、介護職に興味のある地域の住民とつながることができ、仲間を増やすことができました。
当初は法人格がなくてもいい、と考えていましたが、柱とする介護保険事業を営む上で、法人格の取得は必要でした。様々な法人格の中で、NPO法人の運営方法が自分の思うところに近いと考え、NPO法人としての設立を選択しました。
NPO法人の時から、働く人が意見を出し合う運営を目指してきましたが、当初は、組合員から意見が出ない事や、代表理事の指示待ちの場面も多かったため、「協同労働」の働き方を何度も丁寧に繰り返し説明するようにしました。すると、組合員が積極的に意見を出し合うようになり、組合員お互いが支え合う運営に変わり始めました。

毎月開かれる全体会議では前月の経営報告を、試算表を公表して説明しています。また常勤者を中心にして虐待防止委員会、研修委員会、イベント委員会、運転委員会、フロンティア委員会などを運営しています。理事会と全常勤者会議は隔月で開催をし、それぞれの会議には全組合員がオブザーバーで参加出来るようにしていて、発言についても制限を設けていません。
3.働きやすい職場づくりと、持続可能な地域づくりに向けて

組合員の多くが個人的な生活の充実を大事にしているため、有給休暇の消化や家庭の事情による勤務調整等も日常的に行っています。サービス提供責任者として働く組合員のNさん(勤続18年)は、「家庭との両立もあり週30時間の勤務をしている。事情によって在宅ワークも認められているため働きやすい」と話します。7年間非常勤ヘルパーで働き、途中から常勤職となって責任者として働く組合員のIさん(勤続10年)は、「家では週2回英語教室を運営している。ダブルワークも両立出来るなら認められている」と、働きやすい職場の魅力を話してくれました。
労働者協同組合法の施行は、組合員全員が出資額や役職などに関わらず対等な立場で運営に参加することを後押ししてくれたことから、「関わって頂ける方たちにも出資をして頂いて、主体的に事業に取り組んでもらえるのではないか」と考え、さらに地域社会に寄与する働き方を見据え、法人を労働者協同組合へ移行しました。

Sさんは移行にあたり、「『労働者』という言葉に職場から反発があるのでは?」とも考えていましたが、「比較的長く働いて頂いている組合員が多く、基本的には今までと変わらない運営方法を、今度は法律が保障するという意味で、自然に理解して頂いた」と振り返ります。
この組合では、地域の住民からのニーズにより、障がい児を預かる事業所の開設や、訪問介護拠点の拡大などを進めており、利用者本位のケアと地域に根差した活動が徐々に広がっています。
Sさんは、「地域での身の丈に合った仕事をおこし、地域の人の得意分野の力を借りることで、数々の社会的事業が生まれる事に期待している」と話してくれました。組合員も含めた地域の方たちと協力して、様々なニーズを形に変えていきたいとも考えています。
さらに、「今後は協同労働という働き方をより多くの方へ知ってもらい、その働き方に共感し自分たちで地域福祉を担いたいと考える仲間や介護事業者を沢山つくりたいと考えています。さらに、協同労働を導入して介護の事業を行う中で、地域の方との関係づくりを深め、市民とも一緒になって地域のケアを考えていく活動をしていきたい」と今後の展望を語りました。