第11回 世界の協同労働について
(2024年6月掲載)
日本労働者協同組合連合会
事務局次長 中野 理 氏
海外では様々な協同組合が活動し、法整備もされていますが、その中に協同労働を実践する協同組合(以下協同労働組織)も多数存在します。
今回は日本労働者協同組合連合会で海外の協同組合や協同労働組織と連携・交流担当責任者をしている、中野 理 氏にお話をお聞きしました。
1.海外の協同組合と協同労働について

世界の協同組合を代表する国際機関として、国際協同組合同盟(以下ICA、註1)があり、1895年に設立され、現在はベルギー・ブリュッセルに本部を置いています。ICAは103の国・地域から307の団体(約300万の協同組合、約10億人の組合員)が加盟しています。またICAに加盟する協同組合では、約2億8千万人に雇用が生み出されており、これは世界の労働人口の約10%を占めると言われています。
協同労働組織の国際組織は、ICAの分野別組織のひとつとして、CICOPA(産業労働者・熟練工業者・サービス生産者協同組合国際機構)がその役割を担っています。

1947年に設立され、現在は36ヵ国から52団体が加盟しています。世界全体の協同労働の総組合員数は約1,115万人(就労者は約2千万人)と言われていますが、そのうちCICOPAに加盟する組合員総数は約400万人に達しています。またCICOPAにはヨーロッパと南北アメリカに地域別支部があり、2021年にはアジア太平洋支部(CICOPA-AP)も設立されました(註2)。
2.協同組合と協同労働の歴史
18世紀後半からイギリスから産業革命が始まり、西欧諸国を中心に産業構造が大きく変化し、機械化等で多くの失業者も増加しました。こうした中、1844年にイギリスの小工業都市ロッジデールで安全な食品を安価に提供するために、利用する人々が資金を出し合う協同組合(生協)が世界ではじめて設立されたと言われています。また世界初の協同組合法は1852年にイギリスで制定された「産業節約法」。1860年代にはドイツやフランスでも次々と協同組合法が制定されました。
協同組合は19世紀後半から20世紀にかけて急速に発展しましたが、二度の世界大戦を経て資本主義経済が急速に広がる中、市場競争の中で株式会社との競争に対処できないまま停滞を余儀なくされたと言われています。
他方で1956年にスペイン・バスク州で「モンドラゴン協同組合グループ」が誕生し、一人一票の権利と働く人みんなが出資しみんなで運営する協同労働の組織が、1980年代頃から協同組合の中で注目されることになります。
3.海外における協同組合と協同労働の実践例
(1)就労創出
スペイン・バスク州を拠点とする「モンドラゴン協同組合グループ」は、複数の協同組合等で構成され、大規模製造業を中心に小売、金融、教育、研究等多岐にわたる事業を展開しています。
設立の背景は、1943年、神父であるホセ・マリア・アリスメンディアリエタ氏が、スペイン内戦で荒廃したバスク州・モンドラゴンで若者たちの雇用創出を目的に技術学校を設立したこと。1956年には同校の卒業生5人とともに、協同労働による運営でパラフィン・ヒーターの製造事業を開始しました。
その後グループ内に協同労働の組織が続々と設立され、1950年代末には金融業(信用組合)、1960年代には福祉関連事業や小売事業(生協)も開始。現在では約115億ユーロ(約1兆8,600億円)の事業高、約7万人の就労者を擁する一大事業体へと成長し、スペインの経済を支えています。組織ごとに違いはありますが、最低出資額は15,000ユーロ(240万円)前後となっています。
モンドラゴン協同組合グループは地域の失業者を発生させない事を目指しており、グループ内での賃金格差を最大でも6倍以内に押さえ、同業他社と比較しても労働者に高水準の給与を保証しています。また、組合員への教育や社会貢献にも力を入れており、利益の一部を基金として積み立て、地域の教育や起業を支援するプロジェクトにも充てています。
こうした取り組みから、労働者の平均在職年数も長く、地域の就労を維持、創出させる効果を生み出しています。

(2)女性の活躍
「女性の活躍」も協同労働が担う役割として重要なテーマの1つです。例えばインドのSEWA(Self Employed Women’s Association)は、家事労働をはじめとする「インフォーマル・セクター(註3)」で働く女性を約134万人組織化しています。SEWAの設立の経過については、立場の弱い女性労働者の労働条件の改善等を目的に労働組合を設立。それが母体となり、女性の労働条件の改善等と同時に女性の経済的自立を目指して1992年に一人一票で運営する協同労働による事業活動(製造、小売、小規模農業等)を設立しました。組合員は約30万人。100以上の協同組合が活動しています。
また組合員支援の一環として貯蓄や貸付、医療、保険、保育、教育研修等のサービスも提供し、女性の経済的・社会的地位の向上に重要な役割を果たしています。
(3)事業継業・継承

イタリアでは「ワーカーズバイアウト」と呼ばれる後継者不足や倒産の危機となった企業を労働者が買い取り、協同労働で運営する取り組みが注目されています。1985年に「マルコーラ法」が制定され、労働者が事業を買い取る際の資金調達や事業運営のノウハウなどについて様々なサポートが提供されています。
ボローニャの「Gazzotti18」は1910年に設立され、床材や壁材などの製造を中心に約130人の労働者が働いていましたが、2018年に経営破綻。18名の労働者が公的機関等の支援を得て各自約2万ユーロ(約280万円)を出資し、同社の事業を買い取り、協同労働組織へ変更して事業活動を続けています。
労働者自身が自主運営する協同労働の取り組みが、政策的にも推進されており、新たに誕生した協同労働組織の3年後の生存率が約87%に達し、一般企業の設立3年後の生存率約48%に比して格段に高いという事実があります(註4)。
労働者の保護という観点からも、こうした取り組みは失業保険や生活保護の給付などに比して政策的な投資効果があるとも言われています。ちなみに米国でも2018年、ワーカーズバイアウトを支援する連邦法「メインストリート従業員所有法」が制定されました。
(4)就業確保

スペインでは障がいのある方に対する雇用のルール化等の公的支援が遅れていたことから、1965年、当事者とその家族が資金を出し合い就労づくりを目的とした「TEB協同組合グループ」を設立しました。現在ではバルセロナ市をはじめスペイン各地に点在する8つの協同組合のグループに成長し、塗料等の製造、書籍や化粧品等の梱包、食品配送、キノコの栽培・販売等の事業を展開しています。TEBでは約800人の組合員が働いており、そのうち約650人が知的障がいのある方です。また年齢等により働けなくなった約200人に住居も提供。家族や行政による支援だけでなく、自立し尊厳ある生活を営んでいくことを目標としています。
TEBでは約800人の組合員が働いており、そのうち約650人が知的障がいのある方です。また年齢等により働けなくなった約200人に住居も提供。家族や行政による支援だけでなく、自立し尊厳ある生活を営んでいくことを目標としています。
4.日本での協同労働の可能性
このように世界各国では、協同労働を実践する協同組合が、地域の人々の自主的な活動から社会全体で地域をつくる事業活動まで広がり、その取り組みが国・自治体の政策にもつながっています。
日本では一昨年10月に労働者協同組合法が施行され、現在70以上の協同労働の組織が設立されています。市民が様々な事業を通じて地域づくりを担い、「持続可能で活力ある地域社会」を実現していくことが期待されています。
ぜひ日本でも労働者協同組合法の活用や協同労働に関心を持って頂き、住民自身の参加意識や協同性を高めながら、共に地域づくりに向かうことを期待します。
※註1国際協同組合同盟(International Co-operative Alliance)
※註2アジア太平洋支部(CICOPA-AP)加盟国は現在8ヵ国(日本、中国、韓国、インド、インドネシア、イラン、フィリピン、オーストラリア)
※註3法的・制度的整備がされていない「非公式」の経済分野のこと
※註4出典:International Cooperative Alliance「The Marcora Law supporting worker buyouts for thirty years」(2015/9/11)
https://ica.coop/en/media/news/marcora-law-supporting-worker-buyouts-thirty-years