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第7回 不登校・ひきこもりの経験者がつくる労働者協同組合(新宿区)

今回は令和5年6月に設立された労働者協同組合創造集団440Hzを紹介します。この組合は不登校・ひきこもりの経験者が映像作品の制作、チラシ・パンフレット・ポスターのデザイン制作、WEBサイト制作、動画配信、イベント・ワークショップの企画・運営などの事業を展開しています。
撮影業務の様子
<撮影業務の様子>

労働者協同組合創造集団440Hz立ち上げのきっかけ

労働者協同組合創造集団440Hz
<労働者協同組合創造集団440Hzの皆さま>
 創造集団440Hzの組合員は、不登校やひきこもりの若者が集まるオルタナティブ大学(註1)で出会い学び合った仲間です。
 発起人の一人Nさんは、これまでのアルバイトや正社員での就労経験から、一般の会社で働くことに不安がありました。「仕事自体は好きだったが、職場の枠組みに合わせるのがきつかった。上司が絶対で、上司に求められる能力を発揮しなければならない。人間関係においても明るく笑顔で積極的で、誰とでも仲良くスムーズにコミュニケーションを取ることを求められる。そうではない働き方や生き方があってもよいのでは」と考えていました。
 その後Nさんは、自分自身が働きやすい職場や働き方を模索する中、オルタナティブ大学の研究ゼミで、労働者協同組合のモデルを実践している団体の活動を知りました。「メンバー全員で話し合って決め、必要なら自分たちで起業していく。働いている人もいきいきしている。そういう職場なら働いていけそうな気がする。」と希望を感じました。
 起業のきっかけは、メンバーのIさんがオルタナティブ大学修了後の進路を考えていた時のことです。自分らしく生きて働くためには、仲間同士各々の得意分野を活かしながら起業した方が良いと考えていた矢先、たまたま知人から、不登校を経験した若者が設立した会社が休止状態のため、引き継がないかという相談を受けました。そこで、最初はその株式会社を譲り受ける形で創造集団440Hzを立ち上げました。
 その後、他の労働者協同組合との交流を重ねる中で、みんなで運営する協同労働という働き方が自分たちに求めるものと近いと感じるようになりました。そして、労働者協同組合法が施行されたことから、労働者協同組合として新たに法人を設立しました。「株式会社は株主のもの。私たちが運営しているにも関わらず、株主の意見に影響を受ける。労働者協同組合であれば働く私たち自身で話し合って運営していくことができるため、自分たちに合っている。また取引先とのやりとりで心が折れる時でも、仲間との相談しあう関係が基礎にあるので、自分を責めず乗り越えことができる」と語ります。

話し合って決めていくことのメリット

メンバー同士お互いの業務について日常的に声掛け
<メンバー同士お互いの業務について日常的に声掛け>
 株式会社設立当時から、全員で意見を出し合うことを大切にしています。“創造集団440Hz”という法人名を決める時も時間をかけて話し合い、“創造集団”については、みんなで創り合いたいという思いから、“440Hz”は赤ちゃんが初めて息をすう時に上げる声の高さで、心の奥底から出る根源的な声を大事にしたいという思いから、全員一致でこの法人名としました。
 Nさんは「誰か一人の意見で決めるのではなく、各々の考えが混ざり合うことで、より良い方向性が生まれる。」と振り返ります。
 また、組合員の意見を反映させるため、毎週全員参加の会議を行っています。この会議での話し合いとともに、日々のコミュニケーションの積み重ねも大事にしています。「会議が決定の場であることは変わらないが、少人数だからこそ日頃からの声掛けと細やかな相談を欠かさない。」小さな工夫が、上下関係のないコミュニケーション重視の環境を維持しています。
 そのため、アルバイトや正社員での就労の中で傷ついた経験があるメンバー同士でも、仕事で無理しそうな時はお互いにフォローし合うことができています。「組合員はそれぞれ仕事が過集中していると感じた時は、本人から周りにそれを伝えるようにしているが、周りからも積極的に声掛けを行う。また、動画編集、チラシのデザイン、Webサイト制作が並行して進んでいてどれから手をつけたらいいかわからなくなった時など、仕事の整理を行う必要がある場合は、誰が代わるか、外部に頼むか、アルバイトを雇うかなど全員で相談して業務を調整している。」 話し合うことで築いた信頼関係が事業運営を支えています。

今後の展望について

学校に行けない子どもたちの学びの場の様子
<学校に行けない子どもたちの学びの場の様子>
 現在、出身のオルタナティブ大学、他の労働者協同組合と協同で、家庭を中心とした子どもの学びの在り方に取り組んでいます(ホームエデュケーション)(註2)。きっかけは、他の労働者協同組合に在籍する不登校の子どもをもつ親との出会いでした。Nさんたちは、自分たちの経験からその状況を放っておけず、学校に行けない子どもたちの学びの場、親の場をつくれないかと考えました。
 そこで、ひきこもり・不登校状態にある児童を対象に、学校のみに頼らず家庭を拠点として地域の様々な資源を活用しながら、学びの機会を子どもや家族と連携して作り出す事業をスタートさせています。この事業では悩みを共有しあう親の会や親子で学びや遊びで交流する月例会の開催、個別相談、ニュースレターの発行、ホームエデュケーションに役立つ情報を集めたHPの制作などを行っています。こうした活動がきっかけとなって、他県のフリースクールとの関係性も構築でき、この一連の取り組みを全国へ広げつつあります。
 最後にNさんは、「一般的に、ひきこもり経験をした人が社会や学校に戻って普通に企業に就職することがゴールのようなイメージを持たれがちだが、生きていくことが苦しいと感じ、死んでしまいたいと思った経験者自身が、自分自身で考え、自分らしく生きていける働き方を大事にしたい。」と言います。
 「労働者が自ら法人の運営に関わる協同労働の働き方は、オルタナティブ大学で自ら主体的に学んだことがきっかけで実践したが、今までの取組を通して現代社会に求められている多様性を実現するために効果的な手法であると実感している。ぜひ広げていきたい」と今後の展望を語ってくれました。

1オルタナティブ大学とは、ひきこもり・不登校等の方が通学するフリースクールなど、現在の公教育とは異なる、独自の教育理念・方針により運営されている学校の総称

2ホームエデュケーションでは、子どもを学校の勉強に無理矢理合わせるのではなく、子どもの興味関心やペースに合わせることが重視されます。家だけではなく、図書館やプラネタリウム、美術館、公民館などの社会資源も活用します。学校のカリキュラムに合わせる方法もあれば子どもの興味や発見に沿って学ぶ方法もあり、家庭によって異なります。

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