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第18回 働きやすい組織づくりを目指す労働者協同組合(町田市)
(2025年2月掲載)

お店の外観
<お店の外観>
食品の安全性に注目し、生鮮食品や手作りの惣菜を販売する生活クラブ※1の店舗「デポー町田店」(以下、デポー)を運営する労働者協同組合ワーカーズ・コレクティブHarmony(ハーモニー。以下、Harmony)。この組合を育んできたのは、「未来を担う子どもたちにより良い社会を残したい」という思いで生活クラブに関わり、Harmonyを立ち上げた前代表のKさんと、現在の代表であるTさんです。デポーが地域の人々が交流できる温かい居場所になることを目指し、これからの未来を築いていくお2人に話を伺いました。

「やりがい」と「自治」が魅力の働き方

生産者学習会
<生産者学習会>
Harmonyは2012年11月にKさんと15人の仲間によって任意団体として設立され、同年12月にはデポーの運営が始まりました。業務内容は、発注や販売、商品の管理、施設管理、組合員の事務局機能など多岐にわたります。また、組合員が行う料理や生け花などのサークル活動のサポートも行っています。
Harmony設立のきっかけは、前代表のKさんが知人に誘われて生活クラブ生協に加入したことから始まります。一般的に流通している食品の背景や農薬の問題を知ることで、食の安全性に対する関心が深まり、Kさんは生活クラブの活動に熱心に関わるようになりました。
その後、Kさんは農産物の加工を主として事業展開するワーカーズ・コレクティブ※2に所属。そこで、自分たちで夢を描き、仲間と協同で実現へ向けて力を合わせていく自主運営の仕事の魅力に気づいたといいます。
生活クラブ10原則
<生活クラブ10原則>
「食品について学ぶ中で危機感をもったことがきっかけで、子どもたちに少しでも良い社会を残すため、できることをやりたいと思うようになりました。目的も手段も自分たちで決める自主運営なら、それを実現できると思いました。そして、思いが実現したときの喜びが次の原動力となり、その経験がとても心地良かったのです」とKさんはいいます。
自分たちで責任を持ち、自主運営していくことにとてもやりがいを感じたKさん。当時、生活クラブは組合員に向けて、店舗立ち上げを担う団体を募集していることを案内していました。Kさんは「自主運営で仕事をつくる満足感をもう一度感じたい」と思い、迷うことなく手を挙げ、任意団体Harmonyを設立しました。

任意団体から法人団体への道のり

はじめは、地域の人々に寄り添った店舗運営を志すHarmonyへの関心は強く、何百人もの生活クラブ会員が興味関心を寄せます。しかし、店舗運営の道は平坦ではなく、自主運営することにやりがいを感じる一方、問題点も明らかになりました。
「任意団体では銀行からの信用を得ることが難しく、また社会保険の適用事業所として認められないことが多いため、メンバーの社会保険加入も困難でした。そのため、法人格を取得して社会的な信用を得たいと考えるようになりました」と、Kさんは振り返ります。
しかし、法人格を取得することは簡単ではなく、労働環境の整備や、労働基準法を遵守するための資金が必要でした。有給休暇制度や退職金制度を設け、少しずつ資金も貯まってきた頃、ちょうど労働者協同組合法が施行されました。
「法人格を選ぶ際には、労働者協同組合法の『出資・経営・労働が一体となった協同労働』という理念が、自分たちの目指す働き方と一致していたため、迷わず労働者協同組合を選択しました」とKさんはいいます。そしてついに、任意団体設立から10年後の2023年に、労働者協同組合ワーカーズ・コレクティブHarmonyとして法人格を取得しました。

代表職の継承と心強いサポート

前代表のKさん(左)現代表のTさん(右)
<前代表のKさん(左)現代表のTさん(右)>
いつかは代表を継承したいと思っていたKさんは、法人格を取得したことをきっかけに、法人格取得の2023年10月に、代表をTさんに引き継ぐことができました。
労働環境の整備といった土台づくりをKさんが行ってきたことにより、代表継承の下準備は整ったものの、それでも「代表」という役職の重さから引き受けるのを躊躇したTさん。はじめは出来ないと思いましたが、「いなくなるわけではない。引き続き近くでサポートします」というKさんの言葉に励まされ、引き受けることを決意しました。
代表を継承する際、Kさんには何よりも気をつけたことがありました。それは、代表職を退いた後も影響力を持たないよう「口出しはしない。困ったことがあれば相談してね」というスタンスを徹底することでした。
そのおかげで、Tさんは今、のびのびと代表職を担っています。しかし、新たに代表となったTさんは、「求人を出しても人が来ない」という新たな課題に直面しています。
デポーで働いているメンバーは生活クラブ組合員。そのため食の安全などに共通の価値観を持っており信頼関係が構築しやすい反面、スタッフ募集の対象は組合員と限定的なため、なかなか応募が来ないそうです。

壁を乗り越えた先に生まれた意識の変化

部門会議の様子
<部門会議の様子>
法人格を取得してから、メンバーに大きな変化がありました。それは、就労制限がある中でも、メンバー1人1人が責任を持ち仕事に向き合うようになったことです。
労働者協同組合の法人格を取得するためには、デポー町田店で働く従業員の4分の3が組合員である必要がありました。しかし、当時はアルバイトの従業員が約半数を占めていたため、法人格の取得に賛同してくれそうなアルバイト従業員に、組合員への加入をお願いしました。組合員として自ら出資し経営にも関わるようになったことで、例えば、売上目標の達成や業務改善策について積極的な発言が行われるようになる等、次第に意識の変化が見られるようになったのです。
「運営会議への参加を通して、主体的に業務改善の知恵を出してくれるようになり、働くことへの意識が飛躍的に向上したと感じています」とTさん。
例えば、お惣菜メンバーの仕事の分担。これまで前代表が1人で行なっていたパック類や品物の発注、シフト組みといった業務を、メンバー間で割り振ることができました。また、新しいアイディアがメンバーから生まれ、調理室のタスクチェック表の提案から作成、運用までスムーズに実行され、管理効率がアップしたことも。
「責任がひとりひとりにあるという意識の向上を感じました」とTさんは語ります。

地域課題の解決にむけて一歩踏み出す

カフェでランチ提供する様子
<カフェでランチ提供する様子>
デポー町田店に来店する人々を見ていると客の高齢化を感じるそうで、「高齢化が進んでいる地域で事業を行なっているからこそ、できることがある」とTさんは語ります。
まだあまり認知されていないものの店内にはカフェがあり、総菜の提供も行っています。その機能を拡大し、春からはお弁当に温かいスープを付けたランチを始める予定です。その一番の目的は、来てくれる人の居場所やコミュニティづくり。家に閉じこもらず、誰かと会って話をしてほしいというKさんの思いの結晶です。
「労働者協同組合法の趣旨でもある地域課題の解決に少しでも貢献したい」と、自分たちの身近なところで1日1食、温かいものが食べられるような事業が何かできないか、デポーの設備を使って子ども食堂を始められないかなどを日々考えています。
しかし、問題はやはり人手。場所や資金が何とかなってもやってくれる人がおらず、具体的な例を挙げると、「食品の配送サービスをするために配送車はあるが、ドライバーがいない」といった状況になっているそうです。
それでも「地域の方の居場所を提供できればと思っています。高齢の方だけではなく、若い人にとっても子ども連れで来られる居場所になることで、多世代で交流できる場になれば」という希望を持ち、地域の人にとって温かい食事と居場所を提供できる存在でありたいと、Kさんは展望を語ってくれました。
※1「生活クラブ」とは
生活協同組合(生協)として、食品や日用品の共同購入や、消費者の権利保護を目的とした活動を行なっている団体。営利を第一の目的とせず、自分たちの生活を自分たちでよりよくしていくことを目的としているため、組合員が「出資・利用・運営」することによって成り立っている。
※2「ワーカーズ・コレクティブ」とは
同じ思いを持った仲間と事業化し、全員が経営者として働く非営利市民事業。必要な機能を生活者の主体であるワーカーズが、さまざまな「分野、業種、人」のワーカーズ・コレクティブを創り出し市民自治を拡げ、ネットワークすることで、人と人がつながってつくる協同組合型の地域社会を目指している。
利益の追求だけを目的とせず、利用者の信頼や地域貢献を優先している。性別、年齢、ライフスタイル、働き難さを抱えているなどのちがいを理解し合い、「働く」という社会参加を拡げている。
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