第15回 信頼できる仲間と共にデザインを通じて豊かな社会をつくる労働者協同組合(国立市)
(2024年12月掲載)
国立市で印刷物やウェブ媒体のデザイン制作に携わる労働者協同組合くんぺる(以下、くんぺる)を紹介します。くんぺるは、お互いフラットな関係性を保ちながら、住み慣れた地域でライフスタイルやライフステージに合わせて働き続けることを目指しています。
特徴的なのは、デザインスキルのあるメンバー全員が生活クラブ※1の組合員という共通点を背景に設立されたことです。組合設立のきっかけややりがいについて、代表のWさんにお話を伺いました。
仲間との信頼関係が法人設立の礎に

以前、デザインの仕事に従事していた代表のWさんは、ライフステージの変化を機に仕事から離れましたが、その後、安心安全な食材を求めて加入した生活クラブで、広報誌制作の仕事に携わるようになります。それが、後に「労働者協同組合くんぺる」設立へとつながる第一歩でした。
再びデザインの仕事に携わり、自分のスキルを活かす機会を得たWさん。そんな時クライアントからあがったのが、「個人ではなく団体に仕事を依頼したい」という要望でした。
このことをきっかけにWさんは、「デザインの仕事に従事した経験があること」「自宅にデザイン制作をする環境が整っていること」「ワーカーズ・コレクティブ※2に共感し、経営者として主体的にかかわってくれること」を条件に、仲間を探すことに決めました。
その後、生活クラブが組合員からメンバーを集めるサポートをしてくれたおかげで、志を共にするメンバーが5人集まり、2018年に任意団体「ワーカーズ・コレクティブくんぺる」として活動を開始するに至ります。
「くんぺる(Kumpel)」は、ドイツ語で「働く仲間(同志)」を意味します。音の響きが良い、印象に残るなどメンバーからの評判も上々であったため、2024年4月に労働者協同組合として法人化した後も、引き続き「くんぺる」の名称を使用しています。
法人設立に至った背景には、法人格がないと受注できない仕事の存在がありました。「ある商工団体の人からは、『法人格でないと定期物の発注を出せない』と言われたことがあります。また、行政などからの委託を視野に入れ、自分たちに合った法人格を模索していました」とWさんは語ります。
皆が幸せを感じることができる仕事を目指して
国立市にあるワーカーズ・コレクティブでお弁当を作る活動をしていたこともあり、協同労働については任意団体設立前から知っていたWさん。労働者協同組合も、ワーカーズ・コレクティブのようにメンバーが雇用・被雇用関係にならず、皆で対等に意見を出して経営することから、自分たちの法人格にふさわしいのではと考えるようになりました。
また、認証されるまでに時間がかかるNPO法人に比べて、法務局で登記すれば立ち上げられることや、登記の際に費用がかからないことも労働者協同組合の魅力のひとつでした。
「食、環境、子育て、福祉、介護、地域コミュニティ作り」

これは、くんぺるの設立趣意書に書かれている一文です。自分たちの人生経験やキャリアを活かして、上記テーマで人々をサポートすることで自分自身の人生を豊かにする、ひいては、暮らしやすい社会や地域を共に創っていきたいという願いがこめられています。
「待っているだけでは手に入らない。欲しいものを得るためには、お金を払うだけでなく、自ら行動することが必要だと気づきました」とWさんは語ります。
Wさんは、安心できる食材を手に入れるために生活クラブの組合員となり、はじめは利用するだけの関係性でしたが、組合の活動に参画する中で、自ら行動することの大切さに気づきます。その後、自分ができる活動を主体的に始めるようになり、さらに自分の生活に必要なお金を稼ぎたいという気持ちも芽生えたことが、現在のくんぺるにつながっているそうです。
労働者協同組合で築く理想の働き方
くんぺるのメンバーの中には、組合員となる前にフリーランスのデザイナーとして働いていた人もいます。
フリーランスの時は、企業相手に1人で仕事をしていたメンバーのYさん。見積りで競合他社との競争が激しくなり、単独で仕事を続けるのは厳しいと思い始めた頃にくんぺるに出会います。1人よりもチームで、そして自分が信頼できる組織のために仕事がしたいと以前から思っていたこともあり、くんぺるへの参画を決めました。
くんぺるでは、「自分たちが理念に共感できるクライアントと仕事ができることにやりがいを感じている」とメンバーが口をそろえて言います。それは、つながりの中から仕事を受注することが多く、メンバーとクライアントの間には共通の価値観があるためです。
メンバーのSさんは、「クライアントに共感できるからこそ心から宣伝できるし、応援したいと感じている。クライアントが気づいていない良いところにも、外部の私たちだからこそ気づける部分があるので、それを自分たちの強みにしていきたい」と語ります。

現状のくんぺるは売り上げや収入がそれほど高いわけではありません。しかし、自分の時間や裁量で仕事ができるため、フリーランス時代に感じていた苦労は少ないそうです。
メンバーのWさんも、「価値観の近い仲間と仕事をすることで、アドバイスもお互いにしやすく、理解し合いやすい。金額面でも納得して仕事ができるし、話し合いができるのも良い点です」と言います。
また、メンバーはそれぞれが自立して仕事をする意識を持っていることから、1人に負荷がかからず、例えば体調不良の際には誰かが仕事を代わるなど、お互いに助け合いながらフラットな関係性で仕事ができています。
多様なライフステージに対応する働き方を目指して
くんぺるが目指す働き方は、「全員が主体的に関わり、価値観や理念を共有しながら、個々の違いを認めて共生すること」、そして「住み慣れた地域で、ライフスタイルやライフステージに合わせて、いつまでも働き続けられる環境を作ること」だとWさんは言います。
このような働き方を実現させるために、くんぺるでは、皆が幸せを感じることができる仕事、得意なことを活かせる仕事、働き方と生き方の価値観が一致する仕事、世代を超えてコミュニケーションを育む仕事を心がけています。結果として、メンバー同士が働き方についても助け合い、生活を大切にしながら自分が働きたいうちは働ける環境が整っています。
「デザインを通じて、地域をよりよくするために活動しているクライアントさんのお手伝いができることに、やりがいを感じています。これからも自分たちの能力や経験を活かして地域に貢献していきたい」と、Wさんは今後の展望について語ってくださいました。
※1「生活クラブ」とは
生活協同組合(生協)として、食品や日用品の共同購入や、消費者の権利保護を目的とした活動を行なっている団体。営利を第一の目的とせず、自分たちの生活を自分たちでよりよくしていくことを目的としているため、組合員が「出資・利用・運営」することによって成り立っている。
※2「ワーカーズ・コレクティブ」とは
同じ思いを持った仲間と事業化し、全員が経営者として働く非営利市民事業。必要な機能を生活者の主体であるワーカーズが、さまざまな「分野、業種、人」のワーカーズ・コレクティブを創り出し市民自治を拡げ、ネットワークすることで、人と人がつながってつくる協同組合型の地域社会を目指している。
利益の追求だけを目的とせず、利用者の信頼や地域貢献を優先している。性別、年齢、ライフスタイル、働き難さを抱えているなどのちがいを理解し合い、「働く」という社会参加を拡げている。