メニュー

閉じる

第14回 コラム「労働者協同組合」が持つ新たな可能性 -ミドルシニアの活躍推進に向けて-
(2024年11月掲載)

株式会社日本総合研究所
創発戦略センター 小島明子

はじめに

総務省「労働力調査」によれば、1976年に45歳~64歳の就労者の比率は全体の30%でしたが、2023年は42%まで上昇しています。少子高齢化が進む日本社会においては、今後もこの比率は増えることが予想されます。平均寿命も延びつつあるなか、企業に勤めているミドルシニアのなかには、役職定年や定年に伴って、キャリアの頭打ち感に悩む人は少なくありません。
図表1 年齢階級別就労者構成比率
図表1 年齢階級別就労者構成比率

出所:総務省統計局「労働力調査結果」

2021年4月には、高年齢者雇用安定法が改正され、従業員に対する70歳までの雇用確保措置が努力義務となりました。70歳までの定年引き上げや、70歳までの継続雇用制度の導入、定年廃止に加えて、高年齢者が希望するときは、70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入が求められています。一方、ここ数年、企業のなかには、多様な働き方の一環として、定年前であっても、正社員の一部を業務委託契約に切り替える制度を導入しているところも出てきています。
総務省統計局「令和4年就業構造基本調査」によれば、フリーランスの年齢層は、「45~49歳」(24.5万人)が最も多く、「50~54歳」(24.4万人)、「55~59歳」(22.4万人)と続いており、ミドルシニアが多いことが分かっています。高年齢者雇用安定法の改正をはじめ、企業における働き方も多様化するなか、スキルや経験を有する企業勤めのミドルシニアのなかには、フリーランスに転換し、活躍をする人も増えると考えます。

ミドルシニアのフリーランスが活躍をしている労働者協同組合

労働者協同組合法施行以降約2年が経過するなか、全国110法人※1(2024年10月1日時点)が設立されています。そのなかには、フリーランスが中心となって立ち上げられた労働者協同組合もあります。ミュージシャンやイラストレーター、デザイナー、写真家など、フリーランスの職業も多様で、副業・兼業として活動をしています。本稿では、そのなかでも、ミドルシニア世代のフリーランスが中心に活動をされている2つの事例を取り上げます。
地元名産・白川茶を提供する店舗「Gifuto」と事務所
<地元名産・白川茶を提供する店舗
「Gifuto」と事務所>
1つ目は東白川労働者協同組合です。東白川労働者協同組合では、過疎化や少子高齢化を背景にボランティアでは成り立ちづらい困りごとを事業化しています。代表理事は、IT関連の企業を経営しているフリーランスで、ミドルシニア世代の移住者です。他の理事は元地域起こし協力隊でお茶栽培や喫茶店の運営等や、地元企業で経理として働いています。そのような多様なメンバーのスキルを活かしつつ、東白川村を中心に、農林産業・商工業等の地域産業および地域の生活環境を、軽作業、ITや事務作業の補助を通じて支えることを目的に活動しています。運営面でも、ITのスキルを活かし、シェアポイント、ファイル共有ツール等のツールをうまく使いこなすことで、円滑なコミュニケーションにつなげているほか、ホームページを作成し、仕事の依頼も直接受けられるようにしています。
地元名産・白川茶を提供する店舗「Gifuto」と事務所
<キフクト・活動の様子>
2つ目は、労働者協同組合キフクトです。環境に配慮した造園・緑化事業を主要事業としています。メンバーは7人中6人がミドルシニア世代であり、そのうち3名(40代)がフリーランスで、1つ目の事例と同様に副業・兼業をしながらキフクトで働いています。造園以外での就労経験があるメンバーが多く、その経験や知識、人とのつながりが活かされています。月1回対面での定例会議を開催し、多数決はとらず意思決定をされることを大切にしています。加えて、月1回対面でのランチミーティングを行い、オフィスがなく、兼業・副業のメンバーが多くても、負担なくコミュニケーションが取れる場を設けています。私生活も忙しいミドルシニアのメンバー同士が、ゆるやかな関係性をもちながら、各メンバーがスキルや経験を活かしながら活動をしています。

労働者協同組合を通じた新たなキャリア構築

日本総合研究所の調査※2によれば、首都圏の企業に勤めているミドルシニア(調査対象者:45~64歳)のなかで、仕事を通じて自己成長のために働くことが重要だと考えている中高年男性は55.7%、中高年女性は45.4%に上ります。一方、企業側では、定年や役職定年制度によって仕事の内容が限定的になることが多く、ミドルシニアの意欲が十分に活かされないという課題があります。

自己成長のために働くことが重要だと考えているか

円グラフ
そのため、自分の意欲が職場で十分活かすことができないと感じるミドルシニアのなかには、定年後、あるいは定年を迎える前に、現在の企業の仕事を業務委託として継続しながら、フリーランスとして活躍する人も出てくることが想定されます。加えて、前述した労働者協同組合の事例を踏まえると、フリーランスとして一人の仕事を行いながらも、フリーランス同士が集まって労働者協同組合を立ち上げ、同時に2つの働き方をするという新たなキャリアが展開できる可能性もあります。

ミドルシニアが労働者協同組合で働く意義

平均寿命が延びる日本社会において、年齢を経ても、自身のやりたいことを希望する年齢まで働けるフリーランスは、働き方の選択肢の1つとなります。しかし、企業に勤めていたミドルシニアがフリーランスになって、常に一人で仕事をするというのは孤独感に直面することもあると考えます。
そのようなとき、ミドルシニアのフリーランス同士で集まって、労働者協同組合を立ち上げることができれば、仲間と一緒に働く楽しさも得られます。さらに、多様な経験や能力を持つメンバーと一緒に、対等な関係で働く経験は、個人の成長にもつながります。
労働者協同組合は、意欲の高いミドルシニアが活躍に寄与する新たな働き方の1つといえるのではないでしょうか。
※1厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000995367.pdf
※2東京圏で働く高学歴中高年男性の意識と生活実態に関するアンケート調査結果(報告)(2019年)
女性の定年に関する調査報告 ―中高年女性のキャリアと私生活に関する意識―(2022年)
ページの先頭へ戻る